5月に悩んだ
イトヒバ&ヒヨクヒバ問題にひと区切りつけます。名標板に「ヒヨクヒバ」とあった木を、複数の植物園で眺めてみました。この間合いで見る限り、これがヒヨクヒバであってイトヒバではないことなどわかるはずがありません。
なので、グッと近づいて葉を手にとってみました。いくら目を皿にしたところで、4カ月前の同趣旨の写真と区別することは自分には不可能です。
ならば実は?と目を転じたところで結果は同じです。
そこで再度名標板に目をやると、そこにはChamaecyparis pisifera Endl. cv. Filiferaとありました。つまりサワラの園芸種ということです。そこでこの学名をYListであたると、標準和名はヒヨクヒバ、別名としてイトヒバとありました。なんのことはない、5月にこうしてちゃんと調べれば、四の五の悩む必要はなかったわけです。
ところがさらにヒヨクヒバをあたっていくと、C. pisifera Endl. var. filiferaというものも出てきて、前者は園芸品、こちらは変種ということになります。ただし、標準和名・ヒヨクヒバ、別名・イトヒバという呼び方は両者一緒です。
深い世界を勝手に括る失礼を許してもらうと、ヒヨクヒバないしイトヒバと呼んでいる木には変種と園芸種がある(注2)ものの、どちらであってもヒヨクヒバという名前の方を優先すべきだということのようです。先の記事もタイトルは修正しておきます。
さてこれで自分的に一件落着かというと、いつものことながらまたも余計な問題を抱えてしまうのです。YListで「イトヒバ」を検索すると、Thuja orientalis L. 'Flagelliformis'という木に行き当たるのです。和名がイトヒバ、別名はイトスギです。さらにこのThuja orientalisにはvar. pendulaとする種類も(和名・別名は園芸種に同じ)あり、なんとヒヨクヒバに変種と園芸種があるのと同じ構造なのです。
つまり、コノテガシワ(Thuja orientalis)に近い種類にもイトヒバはあるので、ヒヨクヒバのことを別名で呼ぶのはかなり地雷を踏む行為に思えてきました。
さらに別名イトスギであるイトヒバをここに収録するというノルマもできました。さてイトスギとはいつ会えるものやら、そのときまで、ここに書き連ねた面倒な話を覚えていられるものか、混迷と自虐を綯い交ぜにした楽しい旅は続きます。
<補注1> 大きな台風のおかげで、これまで樹種を特定できないでいた木がヒヨクヒバとわかり、その材質まで確認することができました。(2018年10月4日)
<補注2> 「園芸品と変種がある」とした理解が間違いであることをご教示いただきました。とても詳しく、かつ優しくご説明いただいているので、この点の記事書き直しはせず、下のコメントを参照とさせていただきます。(2019年6月13日)
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