9月6日(木) ヒヨクヒバ(イトヒバ)
5月に悩んだイトヒバ&ヒヨクヒバ問題にひと区切りつけます。名標板に「ヒヨクヒバ」とあった木を、複数の植物園で眺めてみました。この間合いで見る限り、これがヒヨクヒバであってイトヒバではないことなどわかるはずがありません。
なので、グッと近づいて葉を手にとってみました。いくら目を皿にしたところで、4カ月前の同趣旨の写真と区別することは自分には不可能です。
ならば実は?と目を転じたところで結果は同じです。
なので、グッと近づいて葉を手にとってみました。いくら目を皿にしたところで、4カ月前の同趣旨の写真と区別することは自分には不可能です。
ならば実は?と目を転じたところで結果は同じです。
そこで再度名標板に目をやると、そこにはChamaecyparis pisifera Endl. cv. Filiferaとありました。つまりサワラの園芸種ということです。そこでこの学名をYListであたると、標準和名はヒヨクヒバ、別名としてイトヒバとありました。なんのことはない、5月にこうしてちゃんと調べれば、四の五の悩む必要はなかったわけです。
ところがさらにヒヨクヒバをあたっていくと、C. pisifera Endl. var. filiferaというものも出てきて、前者は園芸品、こちらは変種ということになります。ただし、標準和名・ヒヨクヒバ、別名・イトヒバという呼び方は両者一緒です。
深い世界を勝手に括る失礼を許してもらうと、ヒヨクヒバないしイトヒバと呼んでいる木には変種と園芸種がある(注2)ものの、どちらであってもヒヨクヒバという名前の方を優先すべきだということのようです。先の記事もタイトルは修正しておきます。
ところがさらにヒヨクヒバをあたっていくと、C. pisifera Endl. var. filiferaというものも出てきて、前者は園芸品、こちらは変種ということになります。ただし、標準和名・ヒヨクヒバ、別名・イトヒバという呼び方は両者一緒です。
深い世界を勝手に括る失礼を許してもらうと、ヒヨクヒバないしイトヒバと呼んでいる木には
さてこれで自分的に一件落着かというと、いつものことながらまたも余計な問題を抱えてしまうのです。YListで「イトヒバ」を検索すると、Thuja orientalis L. 'Flagelliformis'という木に行き当たるのです。和名がイトヒバ、別名はイトスギです。さらにこのThuja orientalisにはvar. pendulaとする種類も(和名・別名は園芸種に同じ)あり、なんとヒヨクヒバに変種と園芸種があるのと同じ構造なのです。
つまり、コノテガシワ(Thuja orientalis)に近い種類にもイトヒバはあるので、ヒヨクヒバのことを別名で呼ぶのはかなり地雷を踏む行為に思えてきました。
さらに別名イトスギであるイトヒバをここに収録するというノルマもできました。さてイトスギとはいつ会えるものやら、そのときまで、ここに書き連ねた面倒な話を覚えていられるものか、混迷と自虐を綯い交ぜにした楽しい旅は続きます。
つまり、コノテガシワ(Thuja orientalis)に近い種類にもイトヒバはあるので、ヒヨクヒバのことを別名で呼ぶのはかなり地雷を踏む行為に思えてきました。
さらに別名イトスギであるイトヒバをここに収録するというノルマもできました。さてイトスギとはいつ会えるものやら、そのときまで、ここに書き連ねた面倒な話を覚えていられるものか、混迷と自虐を綯い交ぜにした楽しい旅は続きます。
<補注1> 大きな台風のおかげで、これまで樹種を特定できないでいた木がヒヨクヒバとわかり、その材質まで確認することができました。(2018年10月4日)
<補注2> 「園芸品と変種がある」とした理解が間違いであることをご教示いただきました。とても詳しく、かつ優しくご説明いただいているので、この点の記事書き直しはせず、下のコメントを参照とさせていただきます。(2019年6月13日)
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コメント
はた衛門様、初めまして
私も都内某所で「イトヒバ」表示の樹を見て検索しており、このブログを拝見しました。
上記の変種と園芸品種問題ですが、学名取り扱いの解釈が微妙に間違っておられるので、不躾ではありますが説明させてください。
YListで種名を検索するとヒヨクヒバの後ろに「標準」と「synonym(シノニム)」の記載があります。
このシノニムは「同じ種に重複して付けられた別の学名」の意味です。
YListでは文献によって学名が異なる場合、国際植物命名規約や現代の分類学の見解から、より妥当性の高いものを「標準」学名、他をシノニムとしています。
よって、ヒヨクヒバもイトヒバも「変種と園芸種がある」のではなく、「変種として記載された学名もあるが、園芸種として記載された学名の方が妥当性が高い」と言うのが正しい読み方です。
また、標準とシノニム、各詳細ページの文献情報を見ると、ヒヨクヒバもイトヒバも変種としているのはより古い文献で、現代に近い文献で園芸種としていることが分かります。
分類学や園芸学が進んだことで、より妥当な解釈の学名が一般化した、という歴史が反映されているわけです。
これらの呼び方の問題については、Cupressus属の和名がイトスギなこともあり、サワラの品種ヒヨクヒバ、コノテガシワの品種イトヒバ、Cupressusをイトスギ、とすると混乱が少なくなりそうなのですが…
造園業や花卉園芸・苗木生産の世界では「学問上の正しい名前」よりも通名・伝統名が使われることが多く、体系的な呼び名を浸透させるのはなかなか難しいようですね。
では、長々と失礼いたしました。
投稿: 通りすがりの樹木好き | 2019-06-12 10:50
通りすがりの樹木好き様
とても丁寧なご教示を賜り、厚く御礼申し上げます。
おかげさまでcv.とvar.の併存関係がよく飲み込めました。
ただ、理解できたと思っても素人のこと、またなにかおかしなことを
書かないとも限りません。そこで記事内容は従来のままとしておき、
頂戴したコメントを参照するように書き足す措置にさせていただきました。
なにとぞご了承のほど、お願い申し上げます。
投稿: はた衛門 | 2019-06-13 06:59