知床はさすがに野生動物の宝庫でした。キタキツネは至るところに我が物顔で現れるし、エゾシカも「奈良公園じゃあるまいし」と笑ってしまうほどでした。
ただ、さすがにヒグマは易々とは人前に出てきません。ところが、早朝にドライブしていたら、歩道に黒い塊を見つけました。ムクムク動くそれは、まさしくヒグマでした。後ろ姿を見つけ、慎重に追い抜き、こわごわと窓を開けて撮った一枚です。
まったく動じることなく歩みを続けていたので、車や人間は無視しているのだと思ったのに、写した顔をよく見ると、目は
しっかりとこちらを睨んでいます。ブルブル…。
そんな、生の遭遇ができなくても、かなりヒグマを見られる確率の高いのが知床クルージングです。泳ぎが速いヒグマが飛び込んで来たって絶対安全な距離です。
と言うか、ヒグマを近くで見るため、岸に寄れる小さなクルーザーを選んだのに、実際はそれでもちょっと遠すぎました。なんと10頭もまとめて見たものの、道路での出会いがなくこれだけだったら、ちょっと不満が残ったことでしょう。
次なる大物はエゾシカの牡です。牝はあちこちでたくさん見てかわいいと思ったけれど、これだけのツノを持つ雄が道路を渡っていると、ヒグマに劣らず恐怖を感じます。
この牡鹿も熊と同じで、生だとこちらをまったく無視していると思ったのに、撮った写真で見ると、目はしっかりとこちらをチェックしていました。油断は禁物です。
そしてこちらが牝です。こうして道路から見つけやすい笹藪に佇んでいることもあれば、もっと見つけにくい木々の奥で、ピーピーと声をあげながら、ひこばえの若葉をはんでいるお嬢さん、あるいはお母さんと一緒のバンビちゃんなどがいました。
さらにこれはとっても悪い顔をしたキタキツネです。ふつうはもっと無表情で、道路や草地に寝転がったりトコトコ歩いたりしているくせに、獲物を盗られまいというのか、十分にこちらを威嚇する目つきでした。
あらためて思うのは、ここは彼らの土地なのだということです。立派な道路ができ、お気楽に観光はできても、その道路に横たわるキタキツネ、飛び跳ねて横断するエゾシカがいます(実際に目の前を通り過ぎました)。
世界遺産になったとて、これらの危険を顧みない暴走車もいれば、ゴミを捨てて去る不心得者がいたのも事実です。「獣に劣る」とはこのことで、慎ましやかに彼らの居住地を訪問する心は忘れたくないものです。
オマケでタンチョウヅルです。雪原のなかで見るものとばかり思っていたので、9月初旬に畑で餌をついばむ姿に我が目を疑いました。
調べたらタンチョウヅルは留鳥でした。ただ、北海道に生息するのは800羽ほどだそうで、5~6,000頭はいるらしいヒグマよりはずっと稀少種です。走る車から偶然に見つけたのは幸運だったと言えるでしょう。